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珈琲茶会
珈琲茶会

第19回 珈琲茶会

  

2019年10月6日(日)

午後1時~ / 初座1時間 後座(懇親会)1時間
於・書斎カフェにて / 会費・500円(入館料含む)

■本日のcoffee いつもの銘柄
■本日の茶菓子 あいちトリエンナーレ不自由展事件
■茶菓子提供者 三頭谷鷹史(美術評論家)

■茶菓子解説

あいちトリエンナーレ不自由展事件 三頭谷鷹史

この暑い夏に、暑苦しい事件が「あいちトリエンナーレ2019」で起きてしまった。この種の巨大アートイベントは、芸術が終末に向かう過程での一現象、というのがもともとの私の見方である。この点はすでに岩田洗心館のウェブ紀要の論文で分析し、見解を述べている(注1)。だから芸術の崩壊過程の姿には興味を引かれるが、それ以上の関心はなかった。ところがトリエンナーレ内企画の「表現の不自由展、その後」がたった3日で展示中止になり、のちに触れるように、ある理由から無関心ではおられなくなったのである。

大声の議論でかき消されるもの・・・・

芸術がこれほど騒がれる事態は、めったにない。ただし本当に作品が問題になっているのかどうか。浅い作品理解をもとにした議論が大声でなされ、作品や作家の声がかき消されてはいないだろうか。美術関係者の一人として、この点がおおいに気になるのだ。表現の自由・不自由の議論は重要だが、当の作品が吹き飛んでしまうようでは、深い議論には至らない。残念ながら作品のうわべだけをとらえた議論が多いのである。そもそも今回の不自由展は、その内容がトリエンナーレのオープンまで伏せられるという、異常に機密性の高いものであった。炎上を警戒しての手段、〈みんなが気づかない内にオープンしてしまえ〉といった作戦のようだが、「表現の自由」を高らかに謳うのであれば、その趣旨にそぐわない、違和感のある作為というほかない。結局のところ炎上し、しかも3日で公開中止とは、ずいぶんと甘い作戦だったことになる。

最初から丁寧な説明をして内容を公開していたら、炎上しても、炎上の意味が違っただろう。また、不自由展を議論のきっかけにしたかったということなら、議論のための材料として、少なくとも近代の美術抑圧史を軽く回顧できる程度の作品展示が必要だったし、性表現はもちろん、多様な表現をできるだけ公平に集める必要があった。しかし、そうした方向性や努力の痕跡は見られない。所詮アートイベントは祭りということか、そして今回の場合、ヤバい?作品の一部をつまみ食いしただけの、祭りの余興のような企画展に見えてしまう。津田大介芸術監督の考えはどうだったのか。

津田氏は4月8日の『ニコニコ生放送』(注2)で「今回の僕のこだわりはこれ」だと語っていた。「僕の肝いりの企画」とも。だとしたら妙である。10億円規模(注3)のイベントなのに不自由展の予算はたったの420万円、「こだわり」「肝いり」の企画としては、ちょっと少なすぎるのではないか(注4)。そして16組もの出品者があるのに展示スペースは極小で、しかも奥まった、分かりにくい部屋だった。私が会場に行ったのは公開禁止後だったので、迷いに迷い、会場係りの人に案内してもらってようやく閉ざされた扉の前に立つことができた。係りの人がもっている図面を見せてもらって展示室の規模を確認、図面を見ながら思った。これって、本気でやろうとしたのか、と。

「天皇コラージュ事件」以来の・・・・・

ともかく、何も知らなかった私は、公開中止後に内容を知って驚いた。この不自由展、自分とは無関係じゃなかったのだ。というのは少女像の次くらいに多くバッシングを受けていたのが天皇の肖像をモチーフにした作品だが、作者の大浦信行氏は、富山県立近代美術館で公開禁止となった「天皇コラージュ事件」(注5)以来の知人だったのである。それで大浦氏に電話すると、不自由展の企画者の一人は小倉利丸氏だという。大浦氏と小倉氏とは、かなりの期間、活動を共にしたことがある。もう一人、出品者の藤江民氏も同様だ。また珈琲茶会参加者の一部には、「天皇コラージュ事件」の時に抗議運動に関わった人もいる。そんなこともあって今回の事件に対して見て見ぬふりができないのである(注6)。

とはいえ当時と今では状況がまるで違う。かつて芸術が保持していた特権的な威信はすでに失墜している。その点を自覚した上での議論が必要なのではないか。また、SNSなどのソーシャルメディアの発達で匿名意見や自己と利己を平気でないまぜにした発言がたれ流されている。強弁と強弁が争う、勝ち負けだけが重要な、情報戦争の時代なのである。しかし、こうした時代だからこそ、私たちはそれぞれの情報と意見をもち寄り、冷静な議論と問題整理をした方がよいように思える。

次回茶会の日はトリエンナーレが終わる頃、いくらか状況も落ち着いているだろう。ぜひとも竹林で、勝ち負けを目的としない清談を!

・・・

(注1) 三頭谷鷹史「美術の終末、芸術の終末」①②(2017~、岩田洗心館ウェブ研究紀要)。

(注2) 後日に視聴。また「j-castニュース」(2019/8/6)に一部が文字化されて掲載。

(注3)  正確な予算を把握していない。ここでは参考に第1回の「あいちトリエンナーレ2010」を見ておこう。総事業費が約12億円。ところが、会場受付や管理の人件費などに国の「緊急雇用創出事業基金事業」費を使っており、実質的な総事業費は約17億3千万円。一方、事業収入は約2億8千万円であった。『平成23年度愛知県包括外部監査結果報告書』による。

(注4)  同程度の予算の公的展覧会なら私も数多く企画しているので、だいたいの感触が掴める。展覧会はなかなか経費がかかるので、この予算ではやれることが限られてくる。聞いたところでは途中で資金ショートしたとのことだ。ありうる話である。

(注5) 1986年、富山県立近代美術館が主催した『86'富山の美術』展で、招待作家の一人であった大浦信行が、昭和天皇の肖像や東西の名画、解剖図、刺青、裸婦などをコラージュ風に構成した版画10点を出品、美術館が購入と寄贈で収蔵。ところが県議会で2議員から作品に対する「不快」発言があり、それが報道されると右翼側の抗議活動が始まり、小川正隆館長が作品の非公開を表明。その後、右翼側からの作品破棄要求と小倉利丸ら市民側や美術関係者たちの公開要求が美術館に向けられる中、1993年、匿名の個人に大浦作品が売却され、大浦や他の出品者の作品が収録されていた図録『86'富山の美術』はすべて焼却という、前代未聞の事態に至った。

(注6) 美術批評誌『裸眼』7号(1988年刊)で富山近美事件を特集、三頭谷鷹史「終身刑!?となった芸術作品」、小倉利丸「ハードな天皇制への兆し」、大泉ひがし「富山県立近代美術館は知らないふりができる」、青木爽平「図書館の社会的責務の放棄は何をもたらすか」、岩田正人「書評『頽廃芸術の夜明け』」など、この事件を様々な角度から検証。1991年、鈴木敏春企画の「無冠の表現回路 エコロジーアートへ」展で鈴木の司会で三頭谷と小倉が講演・対談。同年富山で開催された「表現の自由を考える有志展」に大嶽恵子と西島一洋が参加。1993年、作品売却と図録焼却に対して『裸眼』メンバー6名(岩田正人・佐藤英治・鈴木敏春・西島一洋・三浦幸夫・三頭谷鷹史)が連名で富山近美に抗議声明を出す。同年『美術手帖』8月号に三頭谷が「富山県立近代美術館の収蔵作品売却と図録焼却」執筆、翌年三頭谷は「美術と美術館のあいだを考える会」に参加、以後は大浦や小倉らと共に活動。

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過去の珈琲茶会
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第3回 2016年6月19日 田中美智甫(いけばな/嵯峨御流) 花手前(はなてまえ)
第4回 2016年10月2日 三頭谷鷹史(美術評論家)
                夏目漱石の病、暴力、アウトサイダー・アート(2)
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-赤瀬川原平と岩田信市を手がかりに語る終末論―
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続・1970年代、芸術から風俗へ(美術の終末、芸術の終末③)
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記憶と記録:コミュニティ・写真・アーカイブ
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